夫の誤嚥性肺炎と最後の言葉

今日は、わたしのおススメする本の紹介をさせて頂きます。

夫(離婚した)が認知症になり、わたしは夫を特別養護老人ホームに入れました。

特別養護老人ホームに入れるまでにも色々な選択肢があり、わたしはたくさんの決断をしてきました。

誤解を恐れずに言うと、特別養護老人ホームは夫にとって刑務所のような場所(本人の表現)でした。

それを本人から聞いていたのに、わたしはどうすることもできませんでした。

そして、わたしは自分のことを責めました。

わたしは夫の人生をわたしの意志で勝手に決めてしまった。

夫はわたしなんかと結婚しなかったらこんな思いをせずに済んだのかもしれない。

考えると申し訳なくて頭が狂いそうでした。

信頼できるケアマネMさんに泣いて相談したことも一度や二度ではありません。

その度、ケアマネMさんはわたしに丁寧に接してくれました。

色々なアドバイスをくれて「どの選択肢をとってもどうしても後悔は残る」と慰めてくれました。

ある日、救いを求めて本屋に立ち寄ると目の前に見えたのがこの本でした。

わたしは数ページ立ち読みし、この本を購入することにしました。

 

「わたしが、認知症になったら 介護士の父が記していた20の手紙」
という本で、2022年の11月に購入し、夫が亡くなる日まで何度も読み返していました。

 

以下は、冷静に文章を続けます。

問題提起

問題提起として
認知症いずれ訪れる介護する日、される日について考えること
②著者の原川さんと一緒に働いていた医師の感想から考えること
とさせていただきます。


「みなさんは認知症について考えたことがありますか?

厚生労働省のHPを見ると、日本における65歳以上の認知症の人の数は約600万人(2020年現在)と推計され、2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されており、高齢社会の日本では認知症に向けた取り組みが今後ますます重要になるとされています。


わたしは仕事でお年寄りの方に対して、少し離れたところから見ていますが、実際に身近で「認知症と言う問題」に直面したとき、家族はそれぞれが思い思いに苦しみます。


これは、わたしが認知症当事者(以下当事者)の身近に身を置くことになって知ったことですが、認知症は、本当に少しずつ、少しずつ進行していき、一見すると良くなった様に感じられる日もあります。


そして当事者は、自分が少しずつおかしくなっていることを理解しており、自分が自分でなくなっていくかのような強い不安や絶望を感じて苦しみます。

例えば、眠れない夜中に紙に自分の名前や家族の名前を書いていたりします。


家族はその当事者の苦しい胸の内を聞いてあげる役割もしなければなりません。そのため肉体的にも精神的にも追い詰められます。

 

認知症と言う問題」に直面したとき、家族は本当に苦しみます。


認知症について理解を深めようと思い本屋へ行くと、認知症の予防・原因・症状・対処法について書かれた本は数多くありますが、今日わたしが紹介する本は、ちょっとそれとは違います。

 

わたしにとってのこの本は、身近にいる人が認知症になり、やむを得ず施設に預けることになった時、施設に入れる事への罪悪感を少しだけ解消してくれるものでした。


言葉に出来ないもやもやした気持ちに対して、〝こう言う捉え方をしたら良いのだよ〟と助言をもらっている様な気持ちになりました。


今、話したような家族の悩みがすこし楽になるそんな本です。
そして、以下読者のメリット②で説明していますが、障害者支援の仕事においても役立つ内容が書かれています。


「わたしが、認知症になったら 介護士の父が記していた20の手紙」


本書は、さまざまな介護の現場を20年以上務め、現在は、介護士の指導育成、ならびにコンサルティングを行う著者が、自分が認知症になったときのために、娘に向けて書いておいた手紙という体裁をとりながら、誤解されやすい認知症患者の実際から、基本的な医学情報、介護保険を受ける際の手続きの知識まで、実感こもる豊富なエピソードで、書いているやさしい手引きであり、これから家族が、そして自分自身が認知症になるかもしれない私達への「手紙」でもあります。

 

「わたしが、認知症になったら 介護士の父が記していた20の手紙」


第一章何よりもまず伝えたいこと
1 お前は何も悪くない(要約)
あのとき、ああしていれば、父さんは認知症にならなかったんじゃないか?
私がもっと早く気づいていれば、どうにかなっていたんじゃないか?
お前は優しい人間だから、そんなふうに自分を責めたり、いままでを後悔したりするかもしれない…中略
たしかに世の中に出回っている情報には、脳トレや運動をしていれば認知症は防げるとか、孤独が認知症を助長するとか、早期発見・早期対応で認知症は治るとか、お前の後悔を誘うものもあるだろう。
そんなもの、鵜呑みにするな。
少なくとも「絶対」ではないのだ。
その証拠に…中略
早期発見、早期対応は、ときに「早期レッテル・早期絶望」になることがある。発見が遅れたおかげで、父さんは「認知症の人」ではなく、それまで通りの父さんとして過ごせる期間が延びたとも言えるんだ。
だから、決して自分を責めるな。
父さんが認知症になったのは、「たまたま」だ。お前は、何も悪くない。

 

【著 者】
原川大介(はらかわだいすけ)焼津市出身

 

この本「わたしが、認知症になったら 介護士の父が記していた20の手紙」を読むメリットについて


読者のメリット①
本書は、第一章「何よりもまず伝えたいこと」第二章「お前が楽になるために」第三章「介護サービスの利用にあたって」第四章「とても大切なこと」という四章で構成されており、「お前は悪くない」「お前の名を忘れても」「家族間で揉めたときは」「施設に入ることは、父さんの不幸でもお前の諦めでもない」「手厚い介護を受ける方法」「死について」等の、娘に向けた20の手紙形式で書かれています。実感こもる豊富なエピソードで書かれているので当事者の心情を理解するのに役立ち、当事者が「認知症患者」である前に「ひとりの人間」であることが鮮明に感じられる一冊だと思います。

 

読者のメリット②
娘に向けた手紙6つめに「話が通じない・言いたいことがわからない」というときにどうしたら良いのか書かれています。「相手に話が通じない・相手の言いたいことがわからない」というときにどうしたら良いのかについては、認知症の当事者だけが対象ではなく、人間関係においても、更に言うと障害者支援の仕事においても役立つ内容が書かれています。

 


例①(本の内容を直接引用しています。)が、
父さんと母さんが喧嘩したときも、そうだったろう?父さんは、いつも母さんの言いたいことがわからなくて、「何を言っているかわからない」「なぜ怒ってるんだ?」とついそう言うと、母さんは更に怒っていた。でも「母さんが何を言っているか」にこだわらずに、とにかく母さんの怒りを受け止めていると、母さんの怒りは次第に勝手に収まった…。

例②
更に娘に向けた手紙7つめには、「父さんが嘘をついたときは」について書かれていますが、これも良く嘘をつく障害のある利用者さんの支援に役立つことが書かれています。なので、ぜひ立ち読みでもいいので本を手に取ってみてください。

著者の原川さんと以前一緒に働いていた医師の感想を本のレビューから

つぎに◎著者の原川さんと以前一緒に働いていた医師の感想を本のレビューから見つけましたので、一部直接引用しています。

著者である原川さんが活躍されていた〇〇(施設名)は、過去に自分が関わった施設の中で最も素晴らしいと感じる施設でした。
○○では、利用者さんについて「何を聞いても必ず答えが返って」来ました。
「普段あまり接しないからわからない」「担当じゃないから知らない」といったお返事がありませんでした。
「こんな方で普段はこんな事をしている、こんなことを喜ぶ」といった情報は勿論、ご家族の性格や家庭環境のお話まで伺ったこともあります。
これはチーム全員が利用者さんたちにとっての最良を目指し、深く考え、支えていく、そんな風土があるからなのだと思います。
そして大変センエツですが、自分もその利用者さんたちを支えるチームの一員として、診療に参加させて頂けた、そう思っています。
現在、自分は東京都内の医療機関での訪問診療中心に、診療を行っています。静岡の施設に行く事はなくなりましたが、やはり同じような認知症の方や、癌の末期の方、またさまざまな理由で一人で暮らせないにも関わらず、施設に入る事もできない方など、色々な方を診療しています。普段意識づけはしているつもりなのですが、ともすればやはり「病気、病人」と診がちになります。どうして薬を飲んでくれないんだろう。どうしてこの良い治療方法に納得してくれないんだろう。そう思うことが、本当によくあります。しかし今回、貴著を拝読して、これまでの患者さんの人生経験の結果として、今の表現型がある、という視点に改めて気付かされました。恥ずかしながら大変勉強になりました。明日からの診療にも、活かして参ります。

という内容です。

 

まとめ│最後に

夫とわたしが最後に交わした言葉は、

数分~数十分、夫の顔を見た私が「じゃあ帰るよ」

とかけた言葉に、

「すぐ!」

と一言だけはっきりと返した夫の意志(おまえはすぐに帰ると言う!)のある言葉でした。

夫が誤嚥性肺炎で入院した市立病院で亡くなる数週間前の会話です。

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